インデックス

シリーズ他作品

他作品

BLACK=OUT

第三章第七話:碧は、唯前へ

 BLACK=OUT Project、メンタルフォーサーチームのオペレーションルームでは、関係者全員で会議が行われている。
 もちろん、そこには行方の知れなかったエレナも出席している。
 彼女自身は、インカムが動作していなかったことも気付かずに、日向達が帰ってから戻ってきたのだ。
――もちろん、お土産の洋菓子を片手に、上機嫌で。

「要点をまとめると……」
 四宝院が、資料をずらずらと並べて表示させてあるディスプレイを指し、一同を見回した。
「問題のエリア、通称『露店街』及びその周辺地域は、株式会社ノースヘルの所有する私有地です。しかし、そこに建つ建造物は殆どが無人であり、実質的には使用されておりません」
 ディスプレイに、周辺の俯瞰図がピックアップで表示される。
「露 店街を取り囲むように取り付けられた大量のMFCは、公道から手が届く範囲ではありますが、全てノースヘルの私有地内に取り付けられています。当該地域で は、携帯電話の電波が届かない、また、一部ラジオやテレビなどの受信障害が起こっています。しかし、先ほども述べましたとおり、周辺一帯の土地は、全て ノースヘルが所有しており、民間人は殆どいません。……そのため、通報も僅か数件に止まります」
 宮葉小路は、手許のディスプレイに視線を落とした。
 そこには、このブリーフィングの資料が表示されている。
 なるほど、四宝院の言う通り、通報はここ一年で20件に満たない。
 故に重要度も低く、未だ調査はされていなかったようだ。
 だが、確実に電波障害は起きている。
 エレナのインカムも、後で聞いたのだが自分達のインカムも、あの地域に入った途端にGPS機能に不具合が発生したのだから。
「B.O.P.の回収したMFCを調査した所、実に様々な種類が見つかりました。既に作動していませんでしたが、これらの組み合わせから、ある推論が立てられます」
 ずらり、発見されたMFCの種別が表示される。
 3ページ分ほどはスクロールさせて読んだ宮葉小路だったが、途中で嫌になってしまった。
 なので、最後まで目は通していない。
 どのみち、彼らは戦闘部隊であり、情報の分析は専門外なのだ。
 細かすぎる詳細情報は必要あるまい。
「何者かが、β2区にMFCの実験施設を無許可で作り、それが『露店街』である、と」
 誰かに操られるように人が集まる露店街。
 路地の奥に存在する、魅惑の街路。
 もしそれが、設置されていた、あの大量のMFCの影響であるのなら……。
「問題は、『誰がやっているか』だね」
 エレナが、一通り資料に目を通し終わったのか、顔を上げた。
「最も疑いが濃厚なのは、状況から見てノースヘルです。もちろん問い合わせはしました……やはり否定していましたが」
 企みをあからさまに尋ねているのに、素直に答える馬鹿はいないだろう。
 あの時戦った男が何者かは判らないが、B.O.P.の様に私設部隊を持っている事だって充分に考えられる。
「とりあえず」
 難しい顔をして、宮葉小路が発言する。
「調査を続けるしかないだろう。……今まで表に出てこなかった、もしかしたら巨大な組織かもしれない。B.O.P.もMFTも……対メンタルフォーサーの組織じゃないんだ。こういう事態は見過ごせないが……対応しているマニュアルがあるわけでもない」
 しかし、動かなければ。
 止まっているわけにはいかないのだ。
 対応が遅れれば、それだけ後手後手に回る可能性が高いのだから。
「よし、四宝院達は引き続き調査を続行。MFTは対メンタルフォーサー戦も考慮したメニューと対応マニュアルの作成を行う」
 エレナが締め、会議の終了を宣言する。
 その顔は、新たな敵の出現で……。

――普段とは別人のように、引き締まっていた。

「……つまり、敵の組織の目的は明らかじゃないけど……和真が狙われてる可能性は高い訳ね?」
 あの、黒いコートの男……グラン=シアノーズとの戦いの場に、エレナは居合わせていない。
 宮葉小路が、順を追って詳細を説明し終えると、エレナがそう感想を漏らした、という訳だ。
「で、和真。見当は付いてるんでしょ?」
 エレナはその紅い瞳を日向に向ける。
 その視線は、彼の心を貫くかの如く、ひたすらに真っ直ぐだった。
「何がだ?」
「相手の正体よ」
 右手を腰に当てる。
 これは、エレナが説教をする時の癖だ。
「アンタ達の会った、その、グランとかいう男は、アンタ以外に用は無いって言ったんでしょ? 話を聞く限り、その男は誰かの代理人みたいだから、アンタと直接面識は無いだろうけど……それでも」
 依頼人が誰か、見当ぐらいは付くでしょ、とエレナは締めた。
「さあ……心当たりはあるが、証拠も何も無いんだぜ」
「誰なんだ、そいつは?」
 勢い込んで、宮葉小路が尋ねる。
 今は、少しでも情報が欲しい。
「名前か?」
「ああ、一体誰の仕業なんだ!?」
「名前なんて、意味無いぜ」
 宮葉小路へと向き直り、日向が答える。
「名前に意味が……無いんですか?」
 理解出来ないのか、マークスが問い返した。
「ああ……そいつは……」
 日向の青白い髪が揺れる。
 彼にとってこの話題は、触れたくないにも拘らず、触れざるを得ない領域なのか……。

「そいつは、戸籍を失ってるからな」

  日向の話から、敵の中心人物と思われる影の存在は確認できた。
 その人物は、メンタルフォースやマインドブレイカー、BLACK=OUTといった「特殊心理学」と呼ばれる分野に於いて、特に才能を持っているらしい。
 しかし、それでも。
 未だ、相手の目的すら不透明なのだ。
「ふーっ……」
 色々考えて、脳が沸騰しそうだ。
 宮葉小路は、右手でこめかみをトントン、と叩いた。
 確かに、今持っている僅かな情報だけでは、どうしようもないのだが……。
「事が起こったら、考えてる暇なんて無いんだ」
 だから、今の内に考えておくのだ。
 可能性が多岐に渡って考えられるだけの話だ、そう難しくもあるまい。
「あっ」
 自室へ戻ろうと、廊下を歩いていた足をふと止める。
――大事な事を忘れていた。
 宮葉小路はさっと身を翻すと、たった今歩いて来た道を戻っていった。

ページトップへ戻る