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BLACK=OUT

第五章第三話:黒き殺戮

「発生から二時間……ちっ、誰も気付かなかったのかよ」
 マインドブレイカーの出現通報を受け、日向たちMFTはδ4区に来ていた。
 どうやらB.O.P.のセンサーにも引っ掛からなかったらしく、通報を受けた時点で既に汚染度は区全域の70%にまで達していた。
「……しかし、おかしいな。汚染度の割にはマインドブレイカーの数が少ない」
 宮葉小路が、小首を傾げる。
「ですが、一体一体のレベルが桁違いです。たぶん、それが汚染度の底上げに繋がっているんですよ」
 手許のデバイスを見ながらマークスが言った。
「関係ねぇよ。どれだけいようが強かろうが、俺はそいつらをぶっ潰すだけだ」
 日向がフン、と鼻を鳴らす。
「日向さん、お願いですから……単独行動は避けてくださいね」
「ハッ、知るかよそんな事」
 ふい、とそのまま、日向は行ってしまった。
「あ、ま……待ってくださいよっ!」
「………………」
 先に立つ日向の背中を見る宮葉小路は、複雑な思いを隠せない。
(闘えるのだろうか……僕は)
 それが、自分となのか、日向となのか。
 それともマインドブレイカーや母体を相手に、なのか。
 或いはその全てを指すのか、彼自身もわからないまま、今再び戦地に立っている。
「何と闘えばいい……エレナ……」
 呟き、すぐに頭を振って日向の後を追う。
 とにかく、今は敵を倒さなくてはならない。
 それが、ただ一つだけ確かな事だった。

 少女は、ただ思いをばら撒き続ける。

――スベテ ナクナッテ シマエバイイ

 彼女が生んだ異形は、数こそ決して多くは無い。
 だが、無に帰す少女の願いが凝られたマインドブレイカーは、他者の精神構造を徹底的に破壊する力を秘めている。
 そしてまた、少女自身も周りの世界を壊し続ける。
 目の前に、親子連れがいた。
 父と母、そしてその二人と両手を繋いだ少年。
 マインドブレイカーは、メンタルフォーサー以外見ることは出来ない。
 が、元人間である異形、母体である少女は別だ。
 歪んだ精神が歪めた体構造、能力行使のために変態した体躯は、一般人でも目に入る。
 とりわけ。
 少女は、とびきりの異形だ。
 彼女を見た三人は、揃い顔一杯に恐怖を見せる。

――ナゼ ソコニ イル

 少女の両腕が、ヴ……と耳障りな音を奏でる。

――ワタシハ ヒトリナノニ ナゼ オマエハ テヲツナイデクレル ヒトガイル

 もう、止まらない。
 止めることなど、出来ようか。
 淡く紫に光る両手を、少女は親子へ向けた。
 壊したい。
 壊したい。
 壊したい。
 僅かの逡巡も無く、少女は力を解放する。
 狙い澄まされた怨みの矢が三本、的を違えず解き放たれる。
 吸い込まれるように。
 それは親子連れを刺し貫いた。
「――――――――」
 母親らしき人物が、傍に倒れた少年に何か言っている。
 父親らしき人物が、血まみれでこちらへ這って来ている。
 往生際の、悪い。
 少女は、力で彼らに重石を載せた。

 ぐしゃり。

 なんて簡単に、世界は壊れるのか。
 これなら。
 少女の世界が、いとも簡単に壊されたのも頷ける。

 少女は、今や壊れた破壊者。
 終わらせた世界は、これで90人分。

 むせ返るような臭い溢れるそのビルへ、三人は足を踏み入れた。
「…………っ!」
 思わずマークスが口を押さえ、顔を背ける。
「…………酷いな……」
 僅かに残ったパーツから、これが三人分の遺体であることがわかった。
 かすかに残留する気配から、この凶行がメンタルフォースで行われた事は確かだ。
 が、並みの能力者では、ここまで人を潰せないだろう。
「間違いねぇ、こりゃあ母体の仕業だぜ」
 足元をちらりとだけ見た日向は、目の前のエレベーターに視線を移した。
「……屋上だな。待ってろ、今すぐ叩き潰してやる」

 果たして、そこに母体はいた。
 中学生くらいだろうか、乱れた長い髪が宙を舞っている。
「コワレテ……シマエバイイ……ゼンブ……ゼンブ……ゼンブ!!」
 宮葉小路が思わず一歩後ずさる。
「……完全に壊れてやがる」
 シタールを手にした日向が、母体に意識を集中させて言った。
「一人で突っこまないで下さいね、日向さん。まだ母体の能力が……」
「知るかよっ!!」
 マークスの制止も聞かず、日向は走り出してしまった。
「……っく、馬鹿が!!」
 悪態をつき、宮葉小路が式神を呼ぶ。
 僅か二時間で区一つを全滅させた母体だ。
 到底一筋縄では行かないだろう。
 距離を詰める日向へ、母体が言葉を漏らした。
「オトウサンモ……オカアサンモ……コロサレタノニ……ドウシテ……アナタタチハ……イキテイル……!?」
 その言葉に、日向の体が一瞬止まる。
 次の瞬間、彼の体は母体のメンタルフォースに体を貫かれていた。

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