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BLACK=OUT

第五章第五話:黒との連携

 突如現れた少女が、のそり起き上がった母体へと視線を向けた。
「あんたが元凶かぁ! このあたしが参上したからには、好き勝手させないわよぉ!!」
 ブン、と大太刀が母体を指す。
「何だ、あの刀は……」
 顔を上げた宮葉小路が、それを見て目を見開いた。
「あれは……日向さんと同じ、メンタルフォースの武器……?」
 少女が持つ武器は、マークスが指摘したとおり、メンタルフォースを物質化させたものだ。
 厳密に言えば、質量を有する感情を霧散させずに固定化した物、ということになる。
 だが、少女の持つその大太刀は、実に刃渡り1メートル。
 並のメンタルフォーサーが作成できるサイズの代物ではない。
「そこの化け物、覚悟ぉぉぉぉっ!!!!」
 少女は叫ぶと、母体へと斬りかかった。
「ま、まずい! メンタルフォーサーとは言え、彼女は一般人だ! 戦闘行為は止めさせないと……」
 だが、母体は少女の攻撃を後ろへ跳んで避け、そこから動かない。
 代わりに少女が、足元に倒れている日向を見て叫んだ。
「って……あああああ! 和真じゃん! ……とうとう死んだ?」
「誰が……勝手に殺すんじゃねぇ! ……ん? お前……」
 少女の言葉に、バッと起き上がった日向が、少女と目を合わせたまま動きを止める。
「お前……命……か?」
「あ、生きてた」
「何でお前がここに……いや、そんな事より……」
 日向が、「命」と呼んだ少女から目を逸らし、母体をその視界へ収めた。
「お前は、なぜ街の人たちを殺す!? どういう理由があって襲うんだ!?」
「ミンナ……ミンナ イナクナッタ……」
 母体が、すぅと手を上げる。
 その先には、日向の姿があった。
「オトウサンモ オカアサンモ モウ イナイ」
「なのに、世界は動き続ける。大事な人が消えたのに、何も無かったかのように……」
「和真……」
「だから壊した。幸せそうな、この世界が許せなかったから……そうだな?」
「日向……さん……?」
「ああ、わかるぜ化け物。てめぇの気持ちもな。なぁ? 宮公」
「!!」
「日向さんは……宮葉小路さんの気持ちを解ってて……」
「………………っ」
 思わず、宮葉小路は拳を握り締めた。
 エレナの死が辛いのは、決して自分だけではなかったのだ。
「けどなぁ」
 日向が、母体へと言葉を紡ぎ続ける。
「悪ぃけど、俺も『世界が憎い』んだ。だから……てめぇを潰すぜ!」
「……日向さん……」
「お前らは後ろで見てろ。……命、行けるか?」
「慣れてるよ。……ったく、変わらないね、あんたも」
 そう言って少女は、日向にウィンクを送った。
「行くぜ、命!」
 日向が吠え、少女が爆ぜる様に地を蹴る。
「ロンリィ-ロワー-スタン-ロングディスタンス-セィ!」
「な……あの術式は……!!」
 マークスが声を上げた。
「寝てろ! スタンスター!!」
 日向が振り払った左手から、黄金の球が放たれる。
 先に向かってきた少女に気を取られていた母体が、そのテクニカルに気付くのが遅すぎた。
「ウッ……!」
 母体が呻き、よろける。
「隙有り! 一の太刀!!」
 少女が浅い踏み込みから、袈裟に斬った。
「まだ! 二の太刀!!」
 すぐに手首を返し、左から右へと薙ぎ払う。
「和真!!」
「合わせる!! 跳べ!!!」
 少女の背中へ、日向が走って来ていた。
 声を聴くやいなや、少女は飛び上がりながら前転する。
 日向の目の前には、母体。
 少女は、日向の頭上で、太刀を大上段に構え。
 日向は鋭い踏み込みから、シタールを大きく引く。
「神林流心刀!!」
「我流連撃!!」
 日向と少女の声が、一糸乱れず絡み合う。
「「士皇・鳥転牙(しおう・ちょうてんが)!!!」」
 頭上からの斬撃、足元からの突撃。
 不意を突いた攻撃に、対することなど出来ようか。
「すごい……完璧な連携だ……」
 目の前で起こった出来事に、宮葉小路の思考が停止している。
 少女は、斬ってからもう一度空中で回転し、着地した。
「やったかな?」
「ああ、もう奴は動けねぇよ」
 日向はそう言うと、スタスタと母体の元へと歩いていく。
 母体は頭を割られ、腹部にも大きな穴が開いていた。
「………………」
 日向は、そんな母体をただ黙って見下ろす。
「……わた……し……」
 とても生きてなどいないであろうそれは、しかし口を動かした。
「いっぱい……ころしました……」
「ああ、だからてめぇも殺される。当たり前だ」
 驚いたことに、日向は母体が喋ったことに動じない。
 いや、元々彼女と話す事が目的だったかのようだ。
「……これで……おとうさんと……おかあ……さんに……あえ……ます……」
 それでも、長くは持たないのだろう。
 話す言葉も、呼吸すらも途切れ途切れだった。
「それはねぇよ」
 日向が、目をきゅっと細めて言う。
「人殺しはな、地獄に落ちんだよ。……でもてめぇは満足だろ? 憎い物を壊せたんだからな」
 マークスも宮葉小路も、何も言葉を発しない。
 静寂が辺りを包み込み、母体の呼吸の音だけが、硬いコンクリートにこだまする。
「でも……」
 母体が、重たそうに口を動かした。
「いや……でした……わたし……は……」
 良く見れば、眦にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「だ……から……ありがとう……」
 喉の奥から、シュー、シュー、と空気の音がする。
 もう、母体の声は微かにしか聴こえない。
「わたしを……とめてくれて……ありが……とう……」
 そう言うと、母体はすっと目を閉じた。
 さっきまで聴こえていた、呼吸の音はもうしない。
 母体の元に立つ日向の背中を、少女は辛そうに見ていた。

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