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BLACK=OUT

第七章第三話:碧、覚醒

「三人の容態は?」
「MF発現値は落ち着いとります。まだ目は覚ましませんが、そのうち気ぃ付くでしょう」
 四宝院の言葉を聞いて、神林はほっと胸を撫で下ろした。
「でもぉ、何であんなことになったんですかぁ?」
 メイフェルが、不思議そうに尋ねる。
「あたしにもわかんない。でも……」
 少し言葉を切り、迷いながらも神林は続けた。
「あの時のマークス、普通じゃなかった……」

 何とかマークスを打ち倒した神林だったが、周囲の状況は凄惨を極めた。
 崩れたビルは傾き、アスファルトは大きく抉られている。
 それらが高熱で焼かれ、元の美しかったであろう外見は見る影も無い。
 先刻まで大気に満ちていた濃霧は、マークスの放った術によって固化し、地面に降り積もっている。
「とにかく……本部に連絡をしなきゃ……」
 よろよろと立ち上がった神林が、懐に入れたデバイスを取り出すと、なぜか本部とのリンクが繋がっていた。
「ラッキー、これで応援を呼べる……」
 そして、彼女はそのまま、意識を失ったのだ。

「ほんま驚いたで。 神林さんの報告を受けて出て行った救護班が、その途中で日向さんと宮葉小路さんを拾てくるんやもんなぁ」
「救護班の話ではぁ、周囲に戦闘の痕跡があったそうですからぁ」
 メイフェルが、神林に目を遣る。
 頷き返す神林。
「……うん。多分……和真たちも同じ……」
 一体、何が彼らを……自分たちを狂わせたのだろうか。
 二枚重ねのガラスの向こう。
 未だ目覚めぬ彼らは、何も語らない。

「いい加減認めろよ」
 その影は言う。
「お前、あいつが嫌いなんだろ?殺してやりてぇんだろ?」
 そんなことは無い。
 あるはずが無い。
 彼は、彼は……仲間なのだ。
「その仲間に殺されたんだぜ、あいつをさ」
 彼が悪いのではない。
 彼が手を下したのではなく、彼をあいつが庇っただけだ。
「同じことだ。あいつがここに来なけりゃ、死ぬことはなかった」
 そんなの結果論でしかない。
「そんな意味わかんねぇ理屈じゃなくてだな、お前はどうしてぇんだよ」
 どうしたいか……なんて……。
「なぁ、お前の望みは何なんだ?」
 僕は……僕は……。

 僕は、何がしたい……?

 答えられず、彼は天を仰ぐ。
 そこには、吸い込まれそうな暗い闇。
 いくら問いかけても、そこに答えは無く。
 遠くで、もう一人の自分が繰り返す。
 彼を、殺めろと。

 もう、どうなってもいいのかもしれないな。
 委ねるよ、君に、すべて

「宮葉小路、MF発現値上昇……これは……!?」
 メディカルスタッフが声をあげる。
 有り得ない、宮葉小路の脳波は睡眠を示しているのに、メンタルフォースだけが活発化している。
「どうなってるの!?」
「わかりませんが……非常事態である事だけは確かです!!」
 スタッフの返答に、神林の顔から血の気が引いていく。
 彼女の予感が告げていた。
 何か、とんでもないことが起ころうとしている、と。
「まずい、宮葉小路の能力に誘導され、マークスにも同じ症状が!!」
 発生した空気の振動がガラスをビリビリと鳴らす。
「み……ことっ……!!」
 その衝撃で目が覚めたのか、日向がベッドから起き上がる。
「か……和真っ!!」
「二人の……意識……階層……を……っ!  ……この……ままだ……と……覚醒……!」
「!! 宮葉小路とマークスの意識階層スキャンを!!」
 日向の言葉を聞いた四宝院が指示を出す。
「宮葉小路、マークス両名のBO、1-2間マインドプロテクトを突破!!  BLACK=OUT、覚醒します!!!!」
「おそ……かった……か……」
 ゆらりと、二人が立ち上がる。
「よぉ和真。主人格どののお願いでね。あんたを殺しに来たぜ」
 眼鏡を外し、宮葉小路が言う。
 口調からして、完全に変わってしまっている以上、もはや止める術は無い。
 BLACK=OUTは、完全に覚醒してしまったのだ。

 背後で、ガラスの砕け散る音が響く。
 振り向けば、マークスがガラスを打ち破り、コンソールブースに乗り込んでいた。
「アタシのお目当ては、神林……アンタ。邪魔だって言うからさ、殺してあげるね」
 マークスが妖艶に自らの指を舐め上げる。
 こちらも、完全に覚醒してしまったようだ。
「四宝院、スタッフを外へ!! メイフェルは災害用緊急干渉プログラムを起動!!」
 日向が矢継ぎ早に指示を出す。
「わ、わかった!!」
「は……はぁいっ!!!」
 同時に答えた二人だったが……。
「させると思う……?」
 直後、覚醒したマークスの拳が二人を襲う。
「!! しまっ……!!!!」
 虚を突かれ、神林は反応できないまま、部屋の中に不快な音が響いた。

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