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BLACK=OUT 2nd

プロローグ:はじまりの青、はじめの黒

 それは、小さな夢だった。
 どこにでもあるような、ありきたりの幸せ。暖かい優しさに満ちた、静かな時間。
 ――それすら、与えられないのか、許されないのか。
 男は、腕の中で消えていく命の灯を、絶望に塗り潰された目で見つめていた。大切な、誰よりも何よりも大切なその人を失うのは、時間の問題だ。
 私が何をしたと言うのだろう。
 彼女が、あいつが、何をしたと言うのだ。
 ――もしも、これが私への罰だと言うのなら、
「なら、なぜ私を殺さなかった……!」
 所詮は血塗られた道、人並みの幸せを願うなどおこがましい。耳元で、虚の声が囁く。
 背後に、人の気配がした。
「……水島……」
 呼ばれた水島は振り返らず、腕の中の体を強く抱きしめた。
「日向、私は、間違っていたのか……?」
 日向と呼ばれた男は答えない。答えられるはずがない。
「たくさんの命を弄んできた。これはその報いか? これが、こんなものが、私たちが目指した果てか?」
 水島の声は震えていた。恐らく自分でも、泣いていることに気付いていない。
「水島、私は、大切なものを全て犠牲にしてここまで来た。そのことを悔いるつもりはない。これがエゴだとしても、エゴに殉じる覚悟はある。……水島、お前は降りろ。友人として忠告する。お前には、無理だ」
 水島が振り返る。白衣を羽織った日向の姿が目に入った。彼はまっすぐに、水島を見つめている。
「これが、不完全な世界の結末だと言うのなら――」
 水島が睨む。目の前にいるのは、真の世界の体現だ。たとえ自分は違っても、せめてこの痛みを、二度と生み出さない世界を。
「――私は降りない。日向、お前の言う世界を、絶対に作ってやろう」
 そのために、どれだけの血を流すことになったとしても。
 日向は薄く笑った。

「よく言った。さあ、世界のBLACK=OUTを解放しよう」

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